暗きトンネルの向こう

新幹線の発着駅に着いた。
どこに行くとも決めずにだ。
なぜだと言われてもわからない。

昨年の空港に降り立った時の動揺を思うと、素直に空港に行けなかったというのが本音なのかもしれない。
電車を乗り継げば新幹線の駅にたどり着くことも容易だ。

券売機の前に立つ、昨今は新幹線の切符ですら人と会話するという煩わしさから解放されている。
行き先は北にするのか南にするのか、今や九州でも北海道にもつながってしまっている。
思案するがやめた、考えたところで決められやしないのだ。目に留まった入場券を購入する。
ここまできておいてプラットホームに立つだけなど、阿呆としか言いようがない。

どこへ向かうのかもわからず適当に階段を上がってみる。
ターミナル駅へきただけあってぞろりとプラットホームが並んでいる。
そして、どちらへいくのかともわからない新幹線も。
鼻先の長い流線形のフォルム、昔のずんぐりとした初代の新幹線を思えば随分とスタイリッシュなデザインになったものだ。

はたと、博多という行き先が目に留まった。
そうかあれに乗れば博多に着くのか。
むくむくとよくわからない感情が湧き上がった。
目的はない。
ないなんだったら行って帰って来ればいいのではないだろうか。
しかし、そんな狂気の沙汰があるだろうか。
遊園地の乗り物に乗るのではないのだから、博多駅に着いて蜻蛉返りするなどそんな子供じみた発想があるだろうか。
だが、いくからといって観光しなければならないと誰が決めたのか。

いや、誰に監視されているわけでもない私が何をしようともそんなもの誰の目に留まることがあろうか。
ホームを降りて券売機に向かう。
博多行きのぞみを購入した。
何か食い物が必要だ、
東海道新幹線弁当なるどうにも芸のない名前の弁当が良い。

数時間の滞在で日帰りしてもよいし、幸い明日は休みだどこかビジネスホテルに泊まれば良い。
車中で富士山でも眺めてから琵琶湖は見えるんだったか。その後はあまり覚えていないが、トンネルが多かったように思う。
しかし、どうせ寝てしまうだろう。

プラットホームに戻ると先発の車両が入線してくる。
通り過ぎた先をみると屋根の合間から光が差し込んでいた。